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IbaraHistory
[Side:Sun][Side:Moon]
《History:OldClassMate》 イバラシティ。ウラド区付近を学区とする、とあるいち公立小学校。
1学年基本3クラス、1クラス約25~30人。
学区自体は他公立と重なっていたり、重なっていなかったりするも
特段普通の小学校といっても恐らく差し支えはない。

その学校のいち学童として黒須御月という児童がいた。

一学年時。入学時より……"彼"の言動、振る舞いは担任……他教師、そしてクラスメイトの間で。
酷く"問題"になっていた。
これに関しては、その双子の片割れである黒須御日も問題はあるともいえるが……
"彼女"は音楽室のピアノを勝手に弾き、ピアノ弦を摩耗させた結果弦が切れるなどの事態を起こすも
流石に誰もピアノを弾いていないときにしか弾かない、彼女にとって納得の行く理由で禁止とすれば
それに逆らうこともないし、
他学童及び教師へのあたりが悪いことも"彼女"か"彼"に触れない限りは、
"彼"と居ないときはピアノを弾かないときは一人静かに過ごしているため
"彼"とは比較すればもはや問題とは言えないほどだろう……
それに。音楽教師は"彼女"のピアノの腕を買っており、そうした方面の天性の賜物を持つ者であるため
社会性、人間性がなくとも完全にお先真っ暗でもないだろう。
尤も、義務としてある程度叱れど、注意しようとも。
これをまっとうな方向に教え導く義務は学校になどないのだ。
将来のことは全て"彼女"の自己責任だ。

話を戻して。"彼"のこと。
彼は酷い"虚言癖"持ちといえ、入学当初他人との距離感において"彼女"と真逆で
向こうから接触してくる傾向が強かったため、"クラスメイト達"は特にストレスを抱えていた。
話すにあたって。虚実……クラスメイトの者のことすら含んだ、彼の周りのこと。
それを彼は事実のように話す。

ある日は担任にいち児童が泥棒を働いたと言い、
またある日はいち児童がすでに死んでいてここにいるのは偽物だと言い、
そのまたある日は破かれてもないはずの自分の教科書が破かれたと言い、
そしてまたあくる日は濡れてもないのにさっきトイレで頭から水をかけられたと言い、
さらにまたある日は捨てられてもない体操着と上履きを溝に捨てられたと言い……

クラスメイトを指差し、加害者だと貶めるといって過言でないことをし続けた。
まるで、そのことを事実のように彼は言う。
盗まれてもないのに、生きているのに、破かれてないのに、濡れてないのに、捨てられてないのに。

それ以外のクラスメイト……或いは担任にそのようなことを為せる異能力者等居なかった。
誰かが巧みに嘘をついていた……という可能性は全く無い、とも言えないが
限りなく、ないという結論に至った……。
動き、ある程度確かめもしない上で"異常者"とまでは認定していないのだ。
"彼"の見えているもの、感じているものが"異常"。そしてそれが周りに害をなす。

高学年にもなれば。彼も"懲りた"か、"彼女"同様に人から距離を取るようになった。
だがそれでも。クラスメイト達に降りかかる火の粉は消えなかった。

そんなある日のことだ。"彼"に唯一明確に味方しようとする、警察を親に持つ十手小町以外の
クラスメイト達が一箇所に集まり……会議を始めたのは。

「……今日、皆に集まってもらったのは他でもない。黒須君のことだ」
この会議を企画した、一人がそう切り出す。

「……今回の話し合いは他でもない、黒須君への然るべき対応をどうするかというのを
 彼当人と、十手さんをあえて除いた上で話し合って、結論にしようと思っているんだ……
 これが公平性に欠けるというならばきっとそうともいえるし
 この話し合い自体をやめるべきというものがいるならば、合図と同時に手を上げてくれ」

ここにいる皆が、一人残らず真剣な眼差しで。志で彼の方を見て、話を聞いていた。
誰も手をあげなかった。

「一旦、匿名で。投票を行う。
 言いづらくなって、本音を秘めてしまうことだけは避けたい」

投票箱がわりの透明なゴミ袋。 そしてじゆうちょうを切ってつくったここにいる人数分の投票紙。
皆が、思い思いに自らの意思を記して投函した。

──再度補足しよう。ここにそうしたものを改変する異能力者は居ない。
これは本当に間違いなく。ここに集まったもの達が記した意思だ。外部による改変も一切ない。
誰かが異能で操られていたということもない。

微妙な明記ニュアンスの差さえあれ。一枚一枚広げられていった紙は
満場一致で【いじめとされる方法を使ってでも黒須御月をクラスから追放したい】
全ての紙に。手段に拘る必要などないと思い思いの文で、綴られていた。

このクラスはほんとうの意味で団結していた。

「……皆やっぱり、おんなじ気持ちだったんだね」
「ここにいる誰一人……穏便にこだわる気もないんだな……
 こうなると逆に良かったのか悪かったのか……よくわからねぇけど
 ……間違いなく、皆一つの意思には違いないな……」

だれか一人でも。せめて。手段にこだわらなくていいなどと書かず、或いは穏便な手段を使うべきと
そうした意見をもっていたのならば……残りの皆もしっかりとその方向で考えるつもりだった。

「……現実問題、手段にこだわってたらどうにもならないままだよ
 ……よくないとされることでも、解決したいならこれしかない」
「でもどうするんだ? ……黒須がやられたって言ってる程度のことでは
 黒須はどうにもできないだろ……?」
「……ってなると今まで黒須君がそう訴えてないのは、ケガを負わされた……とか」
「いや、去年の運動会の時足を引っ掛けられて転ばされたって言ってたし
 多分ちょっとやそっとのケガや悪意じゃダメなんだと思う」

「私、いい方法思いついたよ」
手をあげてそう言うのは井野瀬夕華という少女だった。

「次の席替え、もうすぐでしょ? その時、くじ引きをやるよね。
 その時、私が花瓶を落として割って。そこに彼を転ばせて顔を狙ってケガをさせる。
 ……彼はいままでの傾向だとすぐには行かないけど、最後静かになってからは行かない
 それを利用する。
 方法は、とにかくまずは皆くじ箱に雪崩れこんでほしい。
 こうやって、ごちゃごちゃしてそのどさくさで
 花瓶がおちたり転んだりしてもおかしくない状況を作る。
 彼は私を犯人だって言ってくると思う。
 でも私は花瓶当番をやっているから、最悪十手さんあたりがお父さんつてで
 触れたか触れないかっていうのを調べてきたとしても確証たりえないし
 どさくさで他の皆も触っておけばもうなにもわからない。
 あとは皆がいつもみたいに彼のいいがかりだって言えば完璧だ。
 先生も、彼にはうんざりしてる。学校も大きな問題にはしたがらないだろうし。

 そうしたらきっと、味方するのは十手さんと双子の片割くらいで
 双子の片割が逆上して私に復讐してきたら、
 流石に今の今まで彼を転校させたりしないあの二人の親もこの学校に彼……
 ううん、ふたりともおいておけなくなる。

 ……最悪、私は逮捕されたり、通知表記載はあるかもしれないけど勿論覚悟の上
 皆、彼の追放作戦に……協力してくれる……?」

「勿論だ……! 俺はもうひとりの方も憎い……
 井野瀬さんには悪いけど……やってくれるなら、それで双子を追放できるなら俺は協力する!」

「ありがとう宇津宮くん……」

彼だけではない。 ここにいる誰もが、心の底から
実行犯というヒーローである井野瀬夕華に頷き、協力を誓い、願い……
ひとつの願いを実現させるため一致団結した。

この学校、このクラスから。《邪悪》を追放するために。彼らが《邪悪》から解放されるために。


《Side:OldClassMate》
大学生、井野瀬夕華は宇津宮ないし周囲で起こった異変について調べる過程で。
一年以上前の都市伝説サイトを見つけた。

井野瀬夕華
「アンジニティ……侵略者……だいぶ昔に聞いたアレ?」

──まるで、侵略されてるみたいだよね。 アレも……
侵略は誰も気づかないうちに。いつの間にか……この街を蝕んでいる

井野瀬夕華
「……黒須御月は、侵略者」

なんの確証もないだろう。 なくとも。
井野瀬夕華にとって。御月は追放者であり、否定されるべき者、否定した者であり、侵略者。

この世界が。井野瀬夕華が生きる世界がそれに寄って侵略されることだけは
なんとしても阻止しなくてはいけないことはあの日から何も変わらなかった。

井野瀬夕華
「……宇津宮君。」

これ以上の侵攻を許してはならないと。できる限りのことをせねばと。