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IbaraHistory
[Side:Sun][Side:Moon]

僕は見世物じゃない

苦しんでいる人、ひねくれている人がそれを捨て
生きていこうとするというものを見ては『成長したね』『変わったね』『良かったね』
お前達は笑顔でほほえましく満足気に言うんだろう?

反対に悪人とされた人やひねくれている人がそのまま
報いを受けて死ねば『因果応報だ』『反面教師にしなくちゃ』『報われないな』
とその時限りに深く頷き明日には忘れているんだろう?

僕のあるがままを見て、自暴自棄だとそれこそが何よりの弱さだと表や裏、内心で宣うのだろう?
僕を哀れだと思い、言い、自覚の有無問わず見下し蔑みただその時の為に浪費する

僕は。僕の人生はお前らの愉しむための成長劇作品でもなくば
救出劇でもなく悲劇でも喜劇でもない。
           シナリオ
僕の人生をお前らの望む物語になんてしてやらない
僕の人生は僕の人生、お前らの為のショーでも物語でもない

もう一度言う、僕は見世物じゃない

──その悦びは刹那的である





リクエストは受け付けない。要望は受け付けない。誹謗中傷は受け付けない。
お前達はしてくるだろうけどね?

幸せになってほしい? 救われてほしい?
不幸になってほしい? 報いを受けてほしい?
どうでもいい? なにもなく消えてくれ?

結果としてどれかに沿う形になろうどお前らのお望み通りにはしてやらない。
お前らは勝手にAである僕をBやC、DやE、都合よく解釈する
僕を都合が悪いとみるのもそうさ、それだってお前の都合。

お前もそうだろって? 僕のことはいいんだよ
これは僕からお前らへの憎しみの吐露なんだからお前らが途中で口を挟む権利はないんだ
ずっとずっと僕に《うるさく話しかけてた》じゃないか

それにお前らには僕の手中に収まってもらう予定なんだ
僕の望み通りの人生を歩み望み通りに生きて死ぬ
──僕の異能はそういうことができる異能だ
だからこそそんな僕をお前らが危険視して思い通りにしようとする
人一倍思い通りにしようとする。生かして動かし殺すことも


──死の定めから逃れることは叶わない




《Side:Dream in Hazama》

4/15日夜頃 大学生活も始まったばかり。仕事も増やしたり探したりで
まだやや慣れない新居で早めの睡魔が襲い来る……
まだ……9時にもなってない……のに……微睡みの世界に僕は堕ちていく

「愚かな夢魔、この調子ならば支障なくお前を裁けそうだな?
 そういえば先日お前は路地裏で倒れて助けられたのだったか?
 ああして人として人道に則した行いを正しく為した
 模範的で素晴らしい者に対しあのような言い草……邪悪な人でなしの所業だな」

──この声は……思い出した、僕と御日はこいつに存在を殺されるという話だったか

黒須御月
「また貴方ですか……」

──ほとほと呆れるような……何もかもが空虚でどうでもよいような

『因果は動かなかった……私の存在を認識しうる者による干渉もここまで起こってはいない
 ……お前に私の存在とお前に課せられる罰と救済について、記憶を奪わないで置いてやろうか?
 ──さすれば記憶や心を読み取る力や自白剤などで第三者に認識させることは容易になるぞ?
 ……最もお前は他人に助けられること含め"それを厭う"だろうからな?
 記憶を取り上げずその苦という断罪を与えるも一興だな』

黒須御月
「……それではまるで貴方に干渉出来たというように聞こえますが」

『お前のこの夢、私との邂逅自体は以前のものも同じく
 しかるべく力を持つ存在であれば認識することはできただろう
 お前を断罪することこそが私の果たす使命とはいえ、それには制約はかけてないからな』

黒須御月
「は? 何それ……僕の夢が覗き見られるって??」

──その時、夢の中なのにひどく吐き気がした

『そうだ、これを知られ見られるもまたお前の苦だろう
 そして自衛せんとすればそれも逆にお前の首を絞める、
 まさに笑い種だな── お前は周りにいる者達を大事にしていればよかったのに
 粗末にし続け、これからもし続ける事やお前自身が好かれる事を望まぬ故の因果応報だがな』

笑い種── その言葉に僕が覚えたのは酷く腸が煮えくり返る感覚
しかし、それ以上に気掛かりなことがある……

黒須御月
「そうですか……狭間時間であと3時間、だったか」

『やけに大人しくなったな? 反抗心を無くしたか?
 審議はあと3時間だが執行の時がいつ頃になるかはまだ伝えていなかったな?
 侵略戦争終了時を目安とするがお前次第で4時間後に処する。
 私の力は侵略戦争の影響に反発されるようだ、相応にせねばな
 ──私の匙加減次第でお前の余命は変動するわけだ
 荊街のお前達のみ先に執行するのも悪くない
 お前は形を無くし、”アレ”に成れ果ててきているようだしな』

黒須御月
「お前は、お前達はそんなに僕を消したくて堪らないのだな
 そもそもきっと、侵略戦争が終われば彼とも離別することになるだろうから……
 お前じゃなくて彼の手で終わらせてもらえたらいいのに」

『成程、ハザマでの記憶を認識したか。
 それにしてもお前を友と定義する者に自らを殺させるような所業を望むとは
 全く以ってお前はろくでもない……。程々に、一人のみでなく複数に……
 それこそが健全なる人の環であるのに、お前はその相手以外を価値がないと粗末にする
 それこそお前を人でなしたらしめる点の一つ
 そのお前がその相手以外に頭を垂れ助けをと慈悲を乞うか楽しみだ』

──楽しみだ、という言葉に酷く虫酸が走った。
そして深く、深く……更に深く堕ちてゆく。恐らくあの侵略戦争の地へと。

──ここはイバラシティとハザマの境界。
僕はここでの記憶と意識、あの存在がハザマでの時間を基準に言う事から今、そう認識した。
現実と夢の間にある夢、転送の刹那の微睡み。

夢は体感で長く感じても、現実として15秒の間しか起こっていない現象という話がある。
ハザマでの1時間はやけに長い。そしてハザマでの1時間の間、向こうの時は1秒たりとも進んでいない。

まるで夢と現実のようだ。確かなのは向こうではハザマでの記憶がないということ
そして、僕には時間が無いと告げられていることだ……

あと3時間……

障害は障害と思わねば障害ではないともいう
病は治療者と患者の信頼関係──患者が"なおろう"とする意志がなくば"なおらない"ともいう
個性と異常……病巣、症状を線引くのであれば貴方はその時々でそれをどこに置くのだろう

彼は人を嫌う、嫌うことを奪われたくないし捨てたくない
彼は一部の人を好く、一部の人を好くことを奪われたくないし捨てたくない
彼は憎む、憎むことを奪われたくないし捨てたくない
僕はその結果苦しむ、苦しむことを奪われたくないし捨てたくない
が苦しむことを与えられたくないし得たくない
僕が苦しむことを与えられたなら憎み苦しみ恨み通す、それらを奪われたくはないし捨てたくない
       奪われる
彼はそれをなおされことを嫌い、嫌がり、未だにそれが齎す欲望を果たそうとしている

他人はそれを"病巣"とみなし直そうとしてくるだろうと──
いつもいつも、気を張り詰めらせている。
彼に聞こえる《声》も彼を否定し、直せ、改めろと言うのだから

──幸福に決まった形はないはずだ と彼は云う


貴方にとっての幸福はそれだろう。君の幸福自体は否定していない
だがそれを僕に押し付けないでおくれ、それは僕の幸福ではないから──

君にどう見えていても僕は幸福だからね──それを奪って不幸にしないでおくれ

──それとも君の幸福を満たす為に僕の幸福を奪って不幸にするかい?
人は自分の基準で人が幸不幸を得てほしいと考えがちな生物だと僕は考えていてね
君の幸福が僕にとってそうでないというのは君にとっては不快かもしれないね?
その罰として。僕に君の考える幸福を押し付けて染め上げて心臓を奪う──
これ以上ない生き地獄という絶望の終焉じゃあないかそして君は"人を救った善人"として皆に愛されるのだろうね?
殺される僕はそれを嘲ってやるよ──見下してやるよ、この魂潰えるまでね……

やっぱりお前達は僕の世界の傀儡になるのがお似合いだよ──

──知は痴であり、これの寿命は僅かである

おまえはにんげんにならなくてはいけないよにんげんにならなくては
    ただでさえ頭が悪い
おまえはあたまがいいのだからねにんげんにならなくてはいけないにんげんをやめようとしてはいけないひとのいうことをちゃんときいてひとのことはこうていするんだ。さからうんじゃないよさからうなんてしてはいけないひとのいうことやることにきぶんをがいしてはいけないひとのいうことやることはおまえいがいはすべてただしいんだおまえのただしさだけはとおすんじゃないそれはわるいことだわるいところはなおさなくちゃいけないまわりをわるいとしちゃいけないわるいのはぜんぶおまえなのだからねまわりはただしいからそれにしたがいなさいそんなちゃんとしたにんげんにちゃんとなるんだよ



《人/月》とは変化するものである