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IbaraHistory
[Side:Sun][Side:Moon]
《Side:Moon》
想来祭……軽音楽部バンドはライブステージをするために話し合いや準備を進めた。

メンバーは部長の御日、正規部員の近藤恵久美、空子施音、校外メンバーの五十嵐尊、そして御日が
友人として接しているマキナだ。

この5人のバンドの名前としてメンバーの一人が提案したのが

Howling X Five

メンバーがx5で X Five

そこに正規部員の黒川逢佳も加わり、6人になり……



今のバンド名になった。

そして練習には部員の一人の家にスタジオがあるらしく
そこを使わせてもらえる……ということになった。

X-Dayは18日。 昨年度のクリスマスパーティ以来の大舞台、6人の思いを楽器に乗せ……魂を燃やし尽くそう……と





小学生の頃、双子は双方黒髪で御月は今より少し短髪、御日は腰近くある長髪だった。
今の栗毛色は染めた色で、元は黒髪だったのかというと違う。

今の栗毛が、自毛の色だ。

良くあること、ではあるらしい。
ただ、親が周りの目を恐れてするのではなく学校がそうさせるという場合だろうが
……実際、黒髪でない児童なんてごろごろいた。
なのに母は念入りにいつもいつも自分達の髪にスプレーをかけていた。

母の髪は、黒かった。 父は写真でのみ知っているがそれも黒髪だった。
父方の祖父母は知らないが、母方の祖父母もみんな黒髪だ。

そして、自分たちは両親のどちらにもあまり似ていなかった。


それと……自分が何故こんなに長い髪なのかというと。
短くしてもらえなかった。 自分達の髪は母が切っていた。

……いや。 先程のことは訂正する。

短くさせてもらえなかった。

……自分達は鋏を使うこと、持つことが出来なかった。
学校で必要だとしても持たせてもらえなかった。

だからいつも。 学校では必要なとき先生かクラスメイトに借りなくてはならなかった。

何故持たせてもらえなかったのか。
少しでも"女の子らしく"しておくためか、
自分達の差違をつけて分かるようにするため
同じになろうとしないように。 母は想定していたのだろうか

単純にもしものことがあったら、だなどという過保護からでは
学校のそれに支障をきたすほどの制限はしないとも思う。

少なくともこの母のそれは近い自分からは異常にうつった。

一度……学校で髪を切ろうとしたら止められてしまい
自分は長い髪とそれはそれは長い間付き合わされていた。


まだ御月に消えない傷がつけられるよりずっと前の事。
スカートの上に男児用のトップスだなんてちぐはぐな格好をしていた自分には
やはり友達は出来なかった。というよりいらなかったというのが正しい。
愛想よく振る舞うのも面倒だったわけだし、正直御月以外といるのは面倒。

空いた時間があれば音楽室のピアノをいつも弾いていた。

そんなある日のことだ。 ……似たようなことは多分これ一度ではなかったかもしれない。
下らないのでしっかり全部は覚えてない。

ぱちぱちぱち、と拍手の音が聞こえて。そちらをみると一人の女子児童がいたんだっけ。
『凄い……! ピアノそんなに弾けるなんて
 黒須さん……ピアノ似合うね。 黒須さんやっぱり美人さんだし可愛いし…… 長い黒髪、綺麗だし……』

なんの、悪気も悪意もないどころか ただ単に本当に心の底から出た言葉でしかなかったのだろう

自分は感情が爆発して、ピアノの不協和音を強く鳴らしていた。
無論、その相手は酷く驚いていた。

長い黒髪が綺麗 だとか 美人だとか可愛いだとか

本来の色でない髪を地毛と勘違いして言ってるか、染色と気づいた上で言ったかは知らないが
当時親にそうさせられていた身としては酷く神経を逆撫でされるものだったし
"女の子らしく"扱われるのが凄く気持ちが悪かった。

自分がこんな振る舞いをしていたことが御月に消えない傷がつけられた一因だなどとしたら
自分達がトップスを入れ換えていたことが御月に消えない傷がつけられた一因だなどとしたら
御月が少し夢見がちな、変わったことを言うことが消えない傷をつけられた一因だなどとしたら
御月がそれを抑えようと口数を減らしたことが消えない傷をつけられた一因だなどとしたら

仕方ない、だとか当然だとか、そういうものだとか言うものがいようものなら
自分は遠慮なく殴ってやろうとは思っている。
自分にとっては、それが正しいと決めたことだから曲げる気はない。

悪だろうとなんだろうと知ることか。
本当に下らない。 元はと言えばそんなことでそうするような奴がどうかしてる。

その言葉そっくりそのまま返されたとして、知るか。

逆にそれでどうかしてるって思うほうがどうかしてる??
一番最初に悪いのは自分達双子だって?? 知ることか。

……そうして永遠に敵は消えない。 認めるわけにはいかないからだ。 他ならない御月と自分のために。
ためにならない、だなどというのは他人のただの基準の押し付けに過ぎない。





あの事件の後。 自分達は小学を転校することになったのだ
母は周りの目を恐れて、逃げたかったらしい。
中学も更に転校した小学、更に最初の小学とは別の学区の場所にされた

中学に上がる前に。 自分はどうにか髪を御月ほどの長さに切って
母のスプレーも力ずくで拒んで あるべき姿に戻れたと思う。

中学は小学校と同じく基本学区別とはいえ……
過去の自分達を知るものがいないとも言い切れなかったのかもしれない
当時小学生だった者に過去の自分達を覚えているものもいるのだろう

それで何かあるようなら、それは敵。 そうだ、敵だ。