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IbaraHistory
[Side:Sun][Side:Moon]
《History:Sun》
自分たちの誕生日は3月14日。そう、ホワイトデーだ。 片親の我が家は母がある程度遅くまで働きづめで、
それでいてそれらしき誕生日プレゼントも蝋燭の立ったケーキもない。

自分たちが起きているうちか翌日に母はにこやかに職場でもらった菓子類を自分たちに渡すのだ。

黒須真愛
「はい、今年の分のお菓子。二人で仲良く食べてね」


チョコにマシュマロ、キャラメル、キャンディ……

大体がこんなもので、当時は意味なんて知らなかったが自分はこの菓子たちがいつの間にか嫌いになっていった。

うちはうち、よそはよそ。

母は忙しいからと自分たちにそうかまけてはくれなかったしそのたびに「ごめんね」と言葉だけの謝罪をするのだ。
そして欲しい物を訴えると「貴方たちの将来のために貯金をしなくてはだから」
とそれらしい理由で言い訳されては聞き入れてもらえなかった。

小学校に入るくらいのころ。御月が病院に連れていかれた。異能に関することを専門にしている病院だ。
母はひどくそわそわしていて、何かにおびえていた。今ならわかる。人の目だ。
そして御月は帰って来るや酷く泣いた。自分に泣きついてきた。
母が自分のことを危ない物だと扱った、医者で痛い注射を刺されて頭に何かされた。
自分が異能に目覚めたのはこれから多分1年前ほどのことだから、
多分双子であるという根拠だけで言うなら多分御月もそのくらいの時期に
なんらかの異能が発現していたのかもしれない。

御月は夢見がちで、現実と空想を織り交ぜたような自分からすれば面白いことを言う。
それがとても楽しくて、空想力豊かな御月といると自分もそんな自由で楽しい不規則な世界に浸るようになった。

だが学校に入ったら。御月はだんだんと虐められるようになった。
母から読み書きなど小学にあがるまでの最低限のことは習っていたが
家計が貧しいから園には通っておらず、初めて外の集団に触れることになったわけだったが。

泣いて帰ってきた御月に母は説いていた言葉は、嫌でもこの耳に焼き付いている
黒須真愛
「それは異能の副作用だとお医者さんは言ってたでしょ」
「大きくなったら落ち着くから我慢してね」
「ただでさえ片親なのだから、悪目立ちはしないようにしてね」

なんて、御月を一時的になだめるようでいて結局周りの目を気にしたことばかり。
片親だからどう。学校でも自分も時々言われることがある。
授業で家族の話や絵を描かされたりもしたのだが、自分たちは父親を知らない。
それで自分も同じ子供にはからかわれたりだとか大人には哀れまれたり。
自分は何とも思ってなかったが、こんな"普通"を母は気にしているんだと。


自分のことはどうでもいい。 問題はそのあとの御月だ。
小学校高学年にもなるだろう頃。御月のいじめは酷くエスカレートしていた。
入学したころのものは御月自身のそういった発言がなくなってもどんどん悪化するもので
異常者とからかわれるのが日常茶飯事だった。
御月が中性的な雰囲気をしているのや、
自分の意思に反することに合わせたがらないこともきっと影響していたのかもしれない。

自分は御月が夢見がちな非現実的なことを語るのが好きではあったのに
それが少なくなったのは悲しくもあったが、
「僕は周りのために自分を変える気はない、そんなのそいつらの我儘に従うだけ。それに僕は異常者なんかじゃないもの」
という言葉に酷く安心した。
母親はというと年も年なのだからと男の子らしくするようにと正直言って御月には似合わない
そこら辺にいる活発な男児が着ていそうな服を買い与えたがあまりに無駄でしかなかった。
御月と自分は登校班に合流せず二人で通っていたが、
「この服嫌いだから」と道中公衆トイレに入ってこっそり着替えていたわけだから。
御月は自分は女ではなく男であるとは言うものの、自分とは違って可愛いものが好きで
よっぽど女の子らし……なんて言い方は相応しくないな。

そして御月と同時に自分もその影響か母に女の子らしくしなさいと言われていた。
ちょうど自分は御月が着せられていたような服のほうが楽だったから二人で交換こするのがちょうどよかった。

そんなある日に御月がケガをさせられる事件が起こった。



母がそれにとった行動は……担任の言葉に従い御月を今度は精神の病院に連れていくことだった。
母ですら結局御月がおかしいとしたんだ。

処方箋の袋を投げ出し、御月が言ったことは本当今でも鮮明に思い出せる。
「ミカ……僕変な病名言われた。そんなこと起こってないのに、症状があるなんて言われて」

御月の言われた病気の症状は妄想・幻覚・幻聴・他。
異能の副作用だなどと言われていたが、それはそうして別の専門家から
そうしたものとしてこじつけられ……しばらく御月は学校に通ってはいたが
2週間もせずに部屋にこもるようになった。
そして、変なものが見える。聞こえる。時々音がうるさくてたまらない。異常者にさせられてしまった。
そう、自分に訴えるようになった。

自分は頭にきて、御月のクラスに上がり込んで御月が犯人だといったやつをボコボコに殴り倒してやったんだ。
そうしたら教師にもちろん大目玉を食らい、自宅謹慎という処置になった。
面倒事を広げたくないのは御月が被害にあった時と同じらしい。だが、母はそんな自分にこういうんだ。
「お願い、これ以上周りの目におびえたくない」「いい子にして」

堪り兼ねて自分は母を殴りつけたんだ。あの時生徒を殴ったように。
母は体が弱めだったから抵抗もろくにできずに一方的にこちらのペースだった。
「ごめんなさい」「やめて、許して」
そんなことを言う母を数分だろうか、そのくらい長い時間に感じられたが殴り続け、
自分は高いギターと周辺機材を買うように母に"命令"した。
貧しい我が家にとって、出費をさせることが一番のダメージになる。
自分たちの将来のための貯金。そんな風に言ってその時々の"今"を疎かにされ続けて。
このままじゃあ大人になるまで自分たちは大嫌いなチョコや飴やマシュマロに囲まれ続けるだろう。
将来なんかじゃなくて"今"を見てほしかったがそれを求めるだけ無駄だろう。

だがさらに呆れたのはこの母が自分の要求を呑んだことだった。
赤い、エクスプローラ型ギター。確かにそれはとても格好良くてずっと弾いてたいくらい。
しかし結局この母は"モノ"で自分の心をどうにかしようとした。
これを自分に与えれば、すべて許してもらえると。そんなつもりなのが見え見えだ。
保釈金ではなくこれは自分から与える一方的な罰で、
自分がこれに満足しようともこの母を許す気は微塵もない。
そして世間の目を気にする母らしいといえばそうで。
自分がこうして暴力を振るおうと警察に突き出しはしなかった。
それはそうだ。育て方が悪かったとこの母自身も奇異の目で見られるリスクがあるのだから。


中学三年。高校に行くか行かないかという時期。
自分たちの昔からの唯一の知人、十手小町に街で偶然出くわした……
そうしたら相良伊橋高校という高校への進学を進めてきた。
公立高校であるため私立より学費も安く個性や思いやりを尊重する校風から
きっと自分たち二人も馴染めるだろうと。

御月はずっとあれから不登校だったため突っぱねるかと思えば特進クラスに興味を持った。
御月は自分がいじめられたのもまともに助けてもらえなかったのもそいつらがバカだったからだと
そう考えていたから少しは自分と同じレベルには賢いと思える人間の元ならやり直せるかもしれない。
そんな淡い希望をもったのだろうか。

御月は少しの自習はしていたが、自分よりはるかに頭の出来が良くて実際この後余裕で特進に合格した。
きっとトップクラスの成績で合格したに違いない。双子の弟贔屓ゆえのそんな思いだが。

勿論自分はとても特進を受験できるような頭はない。
だが御月と同じ学校にはいてやりたかったし、
この高校ならギターを休み時間に鳴らすくらいはできるだろう
そう思って二人で母にここを受験したいと伝えたんだ。
そうしたら「そんなお金はもう残っていない」「奨学金をもらっても未来に返せる保証がない」
母は自分がスターになるというのを話半分にすら聞いてなかったところはあるが、
なら高校に行かないで活動を始めて早く家にお金を入れてもらわないといつまでもつか分からない
とこの話を出す前から口癖のように言っていた。
自分のギターの値段なんて奨学金にくらべればちっぽけなものだが、この母にすれば
自分をご機嫌取りするために未来のための貯金を沢山消費してしまったことに違いはないのだろう。

「ねえ母さん、もう僕たち母さんのところで暮らすの正直嫌になった。
 寮に住むよ……ミカと二人でこっそり一つの部屋だけの手続きで。
 それなら寮の家賃が一部屋分浮くし高校生になればバイトもできる
 切り詰めれば僕たち二人だけで暮らしていける」

その発言に母は
「そんなことがバレたらどうするの!? 寮で暮らすのは構わないけれども、
 進学するのは勉強のできる貴方だけでいい、御日はすでに他に手に職もあるのだし」と言ってきたが……

「ハ、服装と口調も変えなきゃアンタはあたしたちの区別もつかないんだ
 アンタにすら分からないんだからバレるわけないね。 バレないことの証明してくれてありがとさん」
この母は昔からあたしたちの区別が決まってつかないんだ。母親のくせにね。
幼い頃お互いに名前を一人称にしてたころなんてよく間違えられて生活に支障をきたすレベルだったんだ。
見た目が似てる上にお互いを同じように呼び捨てにしていたから、二人称とも紛らわしいわけだからね。

最も、自分達はもともと同じ存在だ。 異性だからと二卵性と決めつけられてきたこの人生
あまりに不快極まりないから、区別なんて誰にもついてほしくないというのはそう
区別が付かないことが、自分達が同じ存在だというなによりの証拠に思えるから
広義の双子、二卵性じゃない。 ただの同時に生まれた兄弟じゃなくて
狭義の意味での双子、ちゃんと特別な存在なんだって


それから自分達は一人称や口調を互いに意識して変えた。
母も双子らしい同じような服は着せなくなった。
最も自分……いや自分は女に生まれていたのもあったから
スカートを履かされることが多くなったが。

さて、この後どうやって自分達が入学できたかっていうと。
そんなの、言って聞かせたにきまってるんだよね。