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IbaraHistory
[Side:Sun][Side:Moon]

《Side:Sun》
ソーランフェス。　7月に開かれたそれのアマチュア枠に黒須御日は当選した。

曲選は自作の楽曲のなかより。
ある程度の楽曲を作りためてはいて路上ライブや学校その他で一部を弾き鳴らすことはあった。
だが、このフェスでやった2曲は。　公開する気がなかったものだ。
片割れの御月にしか教えていなかった。

けども、黒須御日にとって一番の曲だった。
全てを出しきるならば　あれを出してこそだという結論に至った。
数少ない機会なのだから……

なぜ公開する気がなかったか。
公開するということは　その曲を知られること。
知られるとどうなるだろう。　音の並びを知られる。
目立った主旋律くらいならば音楽の心得のないものでも鼻歌で奏でられるかもしれない
心得のあるものであらばコピー演奏ができるかもしれない

あの曲を聞いたものの中で　疑いを持ったものはいるだろうか

例えばひとつ。　【この曲には歌詞があるのではないか】と

歌詞がわかれば人は歌えるのかもしれない。　歌うことができてしまう。　歌われる。


ソロギターで出場したのは、自分の技術ひとつで勝負したかった

それだけではない。

他人に弾かせたくなかった。


黒須御日は自らのインストに歌詞をつけられるのも嫌であり
実際当人としては軽く、嫌であると意思表示をしたこともあったが……
ソーランフェスでやった、あの2曲の主旋律　特に2曲目のHatiの歌詞が入るはずのところに
別のものをあてかわれるようなことをされたら。

それではきっとすまない。

けど、本当の歌詞さえ明かされなければそれでいい。
【本質】【本意】なんて、作り手が真実とすることを明かさなければ
明らかになりはしないのだから……


危険な橋渡りをしたのは事実だが、誰も気づかなければそれでおしまい。
どうしてもと求められ、断りようがない限りふたつの再演はきっとない。