《History:Moon》
──女子生徒たちの声が聞こえる
《おばあちゃんが言ってたよ 黒須くんが
女の子みたいでいるのはずるいって女の特権を取ろうとするなんてって》
《心が女の子に産まれちゃったって聞いても違うってわけわかんない
なら何で可愛いの好きっていったり欲しがるんだろ?
しかも男って自分で言ってるのに君付けで呼ばれると
なんか嫌そうっていうか酸っぱい顔するし》
《それに双子の音楽室でピアノ弾いてるほう
可愛いって褒めたのに怒鳴ってきてさ》
《隣のクラスの子も似たような目にあってショック受けちゃったらしいよ》
《それにさ、突然わけわからないこと言い出すし……絵本の中の話とか本当だって思ってるとか》
《……小学上がる前にお話の中の事って普通分かることだよね》
《なんであの子、普通学級にいるんだろうね? 勉強成績クラスで一番だっていっても》
《やっぱりおかしいよね……勉強できてもあの子頭おかしいよ》
──男子生徒たちの声が、聞こえる
《本当何なんだろあいつ、男の癖に女みたいな奴で》
《黒須、俺らにも女共にも平気で割行ってこようとするよな?
男は男、女は女で仲良くするだろ俺達みたいに》
《白黒ハッキリしなくて気持ちわりぃ》
《分かる分かる……あとさ、双子の片割の方も
褒められてもキレるしマジで何なんだろう》
《人が褒めたってのに失礼だよな
美人~綺麗~とか褒められるなんて
これ以上ないことのはずじゃんかよマジで》
《許せねぇっていったらあいつに俺ボコられたし
どうにかしてあのクズに思い知らせてぇよ》
《そういや女黒須のせいでショック受けた女子?
お前そいつんこと好きだってマジ?》
《ち、ちげーよ そんなんじゃねぇよ!! つかさ……
黒須、嘘つき病まだ治んないよな》
《そもそも嘘かどうか区別がついてないやつじゃないの》
《え、じゃあなんであいつ特別支援送られてねぇの?》
──全部聞こえる クラスの奴らの声
僕も御日と同じでよく聞こえるから 沢山聞き取れるから
シャットアウトが出来なくなってきた
"意識しなくても、集中しなくても"聞こえるようになってきてしまった
──クラスの奴らの言っていることも
奴らの立場からすれば一理あるのだろう
けれど僕は異常者なんかじゃない、断固
周りがそう言うからで異常者なんだと認めたら最後だ
──奴らからすれば僕は間違いなく
全体を脅かす【がん細胞】のようなものだろう
だとしても、奴らが僕を否定しても
"僕にとって価値のない奴の言葉にも意見にも価値はない"
仮に僕が大量殺戮を行ったとして、
その被害者遺族がそう言ったって同じことを思うだろう
その時の事はその時にならねば分からない、例え話は無意味極まりない事
といえばそうだけれどもそのくらいの想いだということ
僕はただただ、黙って突っ伏していた。 ──そんな時
声が、誰かが僕に声をかけてきた。
眼鏡をかけた、長い黒髪を編み下げにした酷く地味な印象
"なら今すぐクラスの奴らを黙らせろよ お前に何ができるんだよ僕と御日がどうしようもないって結論つけたことに"
──だなんて言えば面倒なことになるのは明白だから、適当に答えてあしらった
ほんと、こういう奴いらない。 興味もないしどうでもいい
というのにその偽善者は僕にしょっちゅう絡んできた
──煩いしどうでもよかった。
突然の自分語りからの御月"くん"はどう? というの
当たり障りのない答えを返すしかない。
"特にはないし自分のペースでゆっくり探すよ"と
──それでじゃあ一緒に探しましょ! なんて
しゃしゃり出てきたら僕は多分我慢できなかったろうから
それとなく用を足しにいくとその場を離れた
席替えの日。この学校では席替えにあたって
くじ引きを行って決めることが多くて今回も
例外なくその方式のようでくじ箱が教卓に置かれた。
こういうときはクラスの奴らがわらわらと
おしやりへしやりと前へ前へとごった返す
そうなればその波にどんどんと飲まれてしまうわけで
クラスの奴らみんながわらわらと前に集まって
クジの取り合いをはじめる
──と程なく教卓近くにあった
背の低い本棚の上の花瓶が落ちて割れた。
その音は酷く僕の頭をぐらつかせ
?? 視界、
落ちて、
床?
破片??
痛い
赤い
赤い、
痛い?!
痛い!!
騒ぎ声、
声がうるさい、
うるさい……
どうして、
どうして??
足が見えた、
上履きが見えた、
赤、
女。
名前が見えた
■■■■■■だ
僕の悪口をとくによく言う声のやつだったはずだ。
間違いない、きっと間違いない
何処が、怪我して、痛い?
手、違う。
頭、抑えつけられた??
けど違う
顔……御日と同じ大切な顔
赤い 血が、たれてる。
口の中、入ってくる。
顎から、おちる
手を引かれる、
連れてかれる つんとする匂い?保健室?
電話されてる? 救急車?
学校名が聞こえた
プッシュ音短い
僕のこと話されてた? 額から?
鼻にかけて深い、切り傷??
拭かれる、
顔を、
垂らされる、
痛い、いたい
……何かに乗せられ
煩い、赤い光が
ぐわぐわとして
運ばれてる
曰く、割れた花瓶の上に転んで
顔に何針も縫う大怪我をしたという。
傷は残るだろうとのこと
処置の経過観察が終わってすぐ
僕はあの教室にまた通うことになった
あの偽善者が僕に話しかけてきた。
大丈夫だったかとか、こんなの酷いとか
──大丈夫なわけないし そんなにお前は
僕に現状をその言葉で再自覚させたいのか??
それが堪らなく煩いがこいつより憎い奴がいる
■■■■■■。
僕の顔を、御日と同じだった
僕の何よりも大切な顔を傷物にした奴
僕は捲し立てた。
こいつが僕の頭を
わざと割れた花瓶に押し付けたのだと
僕は見たんだ。
あいつを、あいつが僕にそうするのを
そんな風に僕が言えばうるさい【クラスメイトさまたち】がだまっちゃあいなかった。
《何言ってるの? ■■■■■がわざとやった?? またいつものデタラメ??》
《いい加減にしろよ嘘つき、お前が勝手にこけたんだろ》
《そんなこというならくじ引きのときに前のほうにいたからの自業自得じゃん》
《あれこれ言われるのが嫌なら他所の学校にでも"そーいう学級"にでもいけばいいじゃん》
《調べたんだけどさ今までの黒須くんって"統■失調■"っていう病気っぽいし
そもそも本当のことなんて見えてないんだよ
ないものが見えたり聞こえたりするの幻覚、幻聴っていうんだって》
《それで昔から変なこと言ってたのか》
《やっぱり嘘つきの異常者かよ、なんでこいつ俺らと同じ普通学級にいるんだろ》
《■■■■■みたいに難癖つけられて濡れ衣着せられるとかたまったものじゃない》
《私何度か同じクラスになってるけど前からこいつそういう被害妄想酷かったよ》
《異常者 この異常者!!》
次々に、僕に浴びせられる"声" 頭が痛い、割れそうだ。
その声に体は、精神は、拒絶反応を示す。
うるさくて、うるさくてうるさくてうるさくて……
もう聞きたくない!
奴らのたてる声も吐息も足音も脈音もすべてすべてすべて耳障りでたまらない!
──ならなんでお前は■■■■■を止めなかったんだ
そんなこと僕が言うまでもなく、クラスメイトが口を開く。
《見てたら止めてるはずじゃない?》《黒須くんのこと庇うためだけに言ってない?》
だなんてつっこみを入れる。
そもそも、全く擁護にすらなってない
僕からすれば焼け石に水としか思えないし腹立たしい。
──言い訳?? ふざけるな
僕がそんな言葉を内心に閉じ込めている間に
そいつを含んだ【クラスメイト達】の声は収まることなく続く
《十手さん、こんな奴のこと庇わなくていいよ》
《私、近くにいたけどそんな感じなかったよ》
《見間違いだろ? あの時ごった返しててどいつがどいつかとかわかんなかったじゃん》
《で、でも本当に■■■■■さんが……! 御月くんに怪我を負わせたなら傷害罪に……!》
《それで違うなら誤認逮捕ってやつになるよな》
《最近問題になってたやつだよね……?》
《それにさっきから■■■■■もやってないって言ってるじゃん》
《たまたま近くにいたとかで犯人って言われたらたまったものじゃないよね、■■■■■さんが可哀想》
《十手は異常者の事庇うのもうやめていいと思うよ》
《なんで! ねえ、いじめはよくないよ!》
《いじめ?? だから何?? 私達こいつに迷惑してるんだよ》
《迷惑な奴を追い出すなりなんなりすんのは当たり前だろ》
僕の耳を、頭を、脳を汚し続ける。
《皆さんお静かに!!》
──そんな最中、それを切り裂くような担任の声が聞こえた。
その後丸く収める為に■■■■■は皆の前で
僕に言葉で謝罪するようにとされた
そして僕は後で母と共に職員室に呼び出されて
"精神科の受診を勧められた"
《黒須さんは皆に合わせることが致命的に出来ないようでしたし
昨年度以前の担任から聞く限りよりは遥かに減っているようですが
私から見ても異常な行動、言動が見えることは確かです
恐らく黒須さんは口数を減らしてそれを無くそうと努力しているのでしょうが》
──努力?? 違う!! 勝手に的外れな憶測をたてるな!
僕はあいつらと話す価値がないと思ってるだけだ!!
そんな言葉を押し殺している間、母の謝罪の言葉が聞こえた
ああ結局この母はそうだ。 結局そうだ。
後日、御日と共に登校する時 学校に……
そんなクラスメイトと担任で構成されたクラスに行くのが嫌で
公衆トイレの個室に閉じこもって過ごしていた
御日は僕と別れるとき、ひどくよどんだ目をしていた。
いや、僕が顔に傷を負ったときから……いやそれよりも前からそうだった。
けれども、それは僕が顔に傷を負って益々強くなり、
そしてトイレの前で服を交換し終えて、行きたくないと
そう伝えたときに更に強くなったのには違いない。
ランドセルの中に入れた文庫や教科書を読んで時間を潰して
外に出ればとっくに夕日が沈みかけていた、のに御日はここに来ていない
帰宅すれば御日と母がいて、どこに居たのか母に問いただされた
母はあまり強引に出れない性格の為黙秘で押し通せた
「お前のクラスに殴り込みにいった
■■■■■って奴はどうにか殴れたけど他のやつ殴る前に押さえられた」
そう、なんでもないように御日は言った 母は泣いていた 御日は暫く自宅謹慎だそうだ
僕は嬉しかった
御日が自宅謹慎を言われた翌日、母が引越しをすると荷造りを始めた
荊街内ではあるが遠くの■区に引っ越した
また公衆トイレで時間を潰すが、やはり学校から母に連絡が入り不登校発覚。
三者面談。保健室登校を勧められた。卒業式、出たくないと言ったらどうしてもの場合は
校長室で校長から直接渡すということを言われた
中学、母の都合でまた引越しをした。カスミ区。前の小学校に……近い が
ギリギリ学区が被らないだろう公立の爆波津中学に入学させられた
御日曰くあの偽善者もちゃんと別の中学のようだ
だが勿論、僕は学校になんて行かない。 あそこには馬鹿しかいないだろうから
僕の友達足りうる、一緒に学校生活を送りたいような人はいるわけないから
中学入学後暫くして、今度は御日が外出時あの偽善者に偶然出くわしたらしい
腐れ縁という奴か
僕が顔に消えない傷をつけられてから、大分たった
あれから病院に通わされている……確かに薬を飲むと煩いのが少し収まる
あれ以来変なものが見えるようになった、聞こえるようになった
医者はそれは幻覚、幻聴で"■合失■症"という病名を告げた。奴らが僕に貼り付けたレッテルだ
医者も僕にそれを貼り付けた。 薬は飲まないと苦しくて堪らない。 飲んでも苦しいのに
病院でカウンセリングを受けさせられてるときに気がついたのだが
その事件の事と、頭異能制御装置を入れられたこと以外の過去の記憶が希薄になっている気がする
医者もカウンセラーも僕を腫物扱いして馬鹿にしているそれは酷く伝わってくる……
堪らず癇癪を起こしてカウンセラーに怒鳴ってああそれで、担当が何度か変えられて、中止されて
医者もそんな感じで何度も変わった
帰ると、御日が母を殴り始める
僕の娯楽はこのときの音を聞くことくらいだ。この時だけ、僕は酷く良い気分になる……
趣味をしているときの達成感やらとは全く違う感覚で……口角が、思わず上がるような
高校に入ってから二年。 御日は僕の出席日数を僕に成りすまして未だに稼いでいる。
しかも僕のほうにも御日に扮して定期テストを受けるように頼んでくる。
10月も暮れの頃。 そろそろ寒くなってきたが久々に二人で買い物に出かけることになった。
学生寮から徒歩でイバモールツクナミまで。
今日は平日。御日は学校をサボって僕とこうしている。
こうして歩いていると本当に今日は人の気がなくて、ひとつ幸いといえるだ──
ぐしゃり──音が、なった
視界は90度横に倒れて、視界は低くなっていて
赤い肉塊が目の前にあってナンバープレートのない黒い車が、
その肉塊の上からすごい勢いで走り去っていった。
いたい
ああでも、意味を理解したら その意味を認識したら
僕の受けた損傷は、この体の損傷だけではなくて
隣の肉塊が何であるか、これは、ただの肉塊だ
《History:Sun》
自分達が高校に入って2年。もう11月だ。
俺の出席日数はそろそろ足りてるだろう。 御月の出席日数稼ぎに専念することにしよう。
並行して学校サボりつつ軽音楽部のスカウトもすすめたりと大忙しになりそうだ。
屋上で軽くライブしたら黒川って奴と大魔道士を名乗る剣野って奴が
こっちに興味をもったようで会話になった。
黒川は軽音楽部へのスカウト成功。
折角だし他所の学校の奴ともセッションしたい。 他校へのスカウトも進める。
創藍高校、熾盛天晴高校、葉色高校、避田高校、ブランブル女学院、貝米津高校、轟木工業高校……
創藍では真柄、熾盛天晴では椰子丸と涼風、避田では天津風、ブラ女では八雲、
貝米津では五十嵐、轟木では西園寺、葉色高校ではスカウトならずだが
音を鳴らす異能力者の奴とセッションした。 異能の音を楽器ってするのはどうだろうと
ペケだしてしまったが硬いこと言わずにスカウトしときゃよかったかな。
その後は見学に来たソラコー1年の空子、あとはブラ女の司馬って奴も来た。
初の舞台はクリスマスパーティでの演劇部のバックバンド。
狼男ん姿んやつと女子生徒の2人が美女と野獣を演じて大仏頭んやつがその他エキストラ
演じきってたのなかなかに上手くやっていた。
劇の雰囲気に合わせて、ヴァイオリンやフルートを主立たせた構成にしたわけだが
どいつも上手くやってくれたおかげでコラボは失敗もなくやりきったろう。
夏休み明け。 前に縁のあったマキナになんとなく勧誘をかけた。
文化祭……想来祭でとうとうバックバンドでなくバンドメインでの公演。
多少のアクシデントが無かったかといえば嘘になるがこれもやりきった。
クリスマスパーティ。 今年は演劇部とのコラボではなく今回もバンドメインでの公演。
空子がいない舞台。 1曲目の曲は空子用の……ヴァイオリンのパートのある構成で作られた
それでいて、そのパートを演奏しない…… 空席の用意された曲をやったわけで……
可愛い部員の我儘……と言えればよかったが御月があいつに懐いているのが俺は気に食わなくて
しかも御月は、そいつと一緒に大学に行きたいと 進学しないという今までの考えを覆した。
俺は御月と一緒にいたい、いてやりたい。 御月も俺と一緒にいたいという。
御月を大学にいかせない、という方法で実現させるのは簡単だ。
俺が御月に成りすまして1年の頃から出席日数をごまかしていたと職員室で暴露してしまえばあるいは。
けれどもそれは御月の望みを否定して壊すことになる。
あいつと一緒にいたいという……俺以外の奴と一緒にいたいという ──もやつく
御月のことを否定することだけはしたくないししてはならない。
ならば俺が大学に行けば……というならばどう考えても不正でもして、成功させねば不可能だ。
なのに俺は大枚はたいて受験票をとって…… クラスメイトやら他の誰かに打ち明けたら……
【勉強頑張るしかない】とか【今まで頑張らなかった自業自得だから諦めろ、仕方ない】と
をとられたくない
そんな風に言われるに決まっているから俺が御月と一緒にいたい、という理由でなんて
絶対に打ち明けることなんてしたくなかったし出来なかった。
そんなとき、黒川が俺に取引をもちかけてきた。
成功の可否は今はまだ分からないが【俺の異能の将来的譲渡を約束する】のを条件に
インチキで俺を大学に合格したことにしてくれるっていう。
そもそも、そんな理由で受験をするなど。 合格するなど。 常識的に、良識的に考えるならば。
本当に真剣に大学に入って勉強をしたかったのに不合格になってしまったものへの冒涜他ならない。
──だが、世の中弱肉強食。 俺は俺の為ならどんな手段でも使うし他人の犠牲なんて厭わない。
俺が不正で合格したことになったなら、誰か一人その分不合格になるのかもしれない。
だがその一人を俺は憐れまないし、その一人は俺にとってどうでもいい。
そいつが敵になったのならば、叩きのめす。 それだけだ。
──女子生徒たちの声が聞こえる
《おばあちゃんが言ってたよ 黒須くんが
女の子みたいでいるのはずるいって女の特権を取ろうとするなんてって》
《心が女の子に産まれちゃったって聞いても違うってわけわかんない
なら何で可愛いの好きっていったり欲しがるんだろ?
しかも男って自分で言ってるのに君付けで呼ばれると
なんか嫌そうっていうか酸っぱい顔するし》
《それに双子の音楽室でピアノ弾いてるほう
可愛いって褒めたのに怒鳴ってきてさ》
《隣のクラスの子も似たような目にあってショック受けちゃったらしいよ》
《それにさ、突然わけわからないこと言い出すし……絵本の中の話とか本当だって思ってるとか》
《……小学上がる前にお話の中の事って普通分かることだよね》
《なんであの子、普通学級にいるんだろうね? 勉強成績クラスで一番だっていっても》
《やっぱりおかしいよね……勉強できてもあの子頭おかしいよ》
──男子生徒たちの声が、聞こえる
《本当何なんだろあいつ、男の癖に女みたいな奴で》
《黒須、俺らにも女共にも平気で割行ってこようとするよな?
男は男、女は女で仲良くするだろ俺達みたいに》
《白黒ハッキリしなくて気持ちわりぃ》
《分かる分かる……あとさ、双子の片割の方も
褒められてもキレるしマジで何なんだろう》
《人が褒めたってのに失礼だよな
美人~綺麗~とか褒められるなんて
これ以上ないことのはずじゃんかよマジで》
《許せねぇっていったらあいつに俺ボコられたし
どうにかしてあのクズに思い知らせてぇよ》
《そういや女黒須のせいでショック受けた女子?
お前そいつんこと好きだってマジ?》
《ち、ちげーよ そんなんじゃねぇよ!! つかさ……
黒須、嘘つき病まだ治んないよな》
《そもそも嘘かどうか区別がついてないやつじゃないの》
《え、じゃあなんであいつ特別支援送られてねぇの?》
──全部聞こえる クラスの奴らの声
僕も御日と同じでよく聞こえるから 沢山聞き取れるから
シャットアウトが出来なくなってきた
"意識しなくても、集中しなくても"聞こえるようになってきてしまった
──クラスの奴らの言っていることも
奴らの立場からすれば一理あるのだろう
けれど僕は異常者なんかじゃない、断固
周りがそう言うからで異常者なんだと認めたら最後だ
──奴らからすれば僕は間違いなく
全体を脅かす【がん細胞】のようなものだろう
だとしても、奴らが僕を否定しても
"僕にとって価値のない奴の言葉にも意見にも価値はない"
仮に僕が大量殺戮を行ったとして、
その被害者遺族がそう言ったって同じことを思うだろう
その時の事はその時にならねば分からない、例え話は無意味極まりない事
といえばそうだけれどもそのくらいの想いだということ
僕はただただ、黙って突っ伏していた。 ──そんな時
この声はだれ?
《あ、あの……あのさ、御月くんが可愛いもの好きなの
私はおかしくなんてないと思うよ
っていうのも私がヒーローとかロボットとか
そういう男の子ぽいの好きだからなんだけども》
《あ、あの……あのさ、御月くんが可愛いもの好きなの
私はおかしくなんてないと思うよ
っていうのも私がヒーローとかロボットとか
そういう男の子ぽいの好きだからなんだけども》
声が、誰かが僕に声をかけてきた。
眼鏡をかけた、長い黒髪を編み下げにした酷く地味な印象
この声はだれ?
《え、えと……私、十手小町っていうの……
パパはねウラド駅前のおまわりさんでママがカウンセラー
何かあったら頼ってね…… その、力になりたいの》
《え、えと……私、十手小町っていうの……
パパはねウラド駅前のおまわりさんでママがカウンセラー
何かあったら頼ってね…… その、力になりたいの》
"なら今すぐクラスの奴らを黙らせろよ お前に何ができるんだよ僕と御日がどうしようもないって結論つけたことに"
──だなんて言えば面倒なことになるのは明白だから、適当に答えてあしらった
ほんと、こういう奴いらない。 興味もないしどうでもいい
というのにその偽善者は僕にしょっちゅう絡んできた
うるさい偽善者
《私ね、人を助けてくれるロボットを開発したいの!!
それかパパみたいに警察になったり、
ママみたいにカウンセラーになったり
……とにかくね、人を助ける仕事につきたいの!!
御月くんは将来の夢って何かある?》
《私ね、人を助けてくれるロボットを開発したいの!!
それかパパみたいに警察になったり、
ママみたいにカウンセラーになったり
……とにかくね、人を助ける仕事につきたいの!!
御月くんは将来の夢って何かある?》
──煩いしどうでもよかった。
突然の自分語りからの御月"くん"はどう? というの
当たり障りのない答えを返すしかない。
"特にはないし自分のペースでゆっくり探すよ"と
──それでじゃあ一緒に探しましょ! なんて
しゃしゃり出てきたら僕は多分我慢できなかったろうから
それとなく用を足しにいくとその場を離れた
席替えの日。この学校では席替えにあたって
くじ引きを行って決めることが多くて今回も
例外なくその方式のようでくじ箱が教卓に置かれた。
こういうときはクラスの奴らがわらわらと
おしやりへしやりと前へ前へとごった返す
そうなればその波にどんどんと飲まれてしまうわけで
クラスの奴らみんながわらわらと前に集まって
クジの取り合いをはじめる
──と程なく教卓近くにあった
背の低い本棚の上の花瓶が落ちて割れた。
その音は酷く僕の頭をぐらつかせ
?? 視界、
落ちて、
床?
破片??
痛い
赤い
赤い、
痛い?!
痛い!!
騒ぎ声、
声がうるさい、
うるさい……
どうして、
どうして??
足が見えた、
上履きが見えた、
赤、
女。
名前が見えた
■■■■■■だ
僕の悪口をとくによく言う声のやつだったはずだ。
間違いない、きっと間違いない
何処が、怪我して、痛い?
手、違う。
頭、抑えつけられた??
けど違う
顔……御日と同じ大切な顔
赤い 血が、たれてる。
口の中、入ってくる。
顎から、おちる
手を引かれる、
連れてかれる つんとする匂い?保健室?
電話されてる? 救急車?
学校名が聞こえた
プッシュ音短い
僕のこと話されてた? 額から?
鼻にかけて深い、切り傷??
拭かれる、
顔を、
垂らされる、
痛い、いたい
……何かに乗せられ
煩い、赤い光が
ぐわぐわとして
運ばれてる
曰く、割れた花瓶の上に転んで
顔に何針も縫う大怪我をしたという。
傷は残るだろうとのこと
処置の経過観察が終わってすぐ
僕はあの教室にまた通うことになった
あの偽善者が僕に話しかけてきた。
大丈夫だったかとか、こんなの酷いとか
──大丈夫なわけないし そんなにお前は
僕に現状をその言葉で再自覚させたいのか??
それが堪らなく煩いがこいつより憎い奴がいる
■■■■■■。
僕の顔を、御日と同じだった
僕の何よりも大切な顔を傷物にした奴
僕は捲し立てた。
こいつが僕の頭を
わざと割れた花瓶に押し付けたのだと
僕は見たんだ。
あいつを、あいつが僕にそうするのを
そんな風に僕が言えばうるさい【クラスメイトさまたち】がだまっちゃあいなかった。
《何言ってるの? ■■■■■がわざとやった?? またいつものデタラメ??》
《いい加減にしろよ嘘つき、お前が勝手にこけたんだろ》
《そんなこというならくじ引きのときに前のほうにいたからの自業自得じゃん》
《あれこれ言われるのが嫌なら他所の学校にでも"そーいう学級"にでもいけばいいじゃん》
《調べたんだけどさ今までの黒須くんって"統■失調■"っていう病気っぽいし
そもそも本当のことなんて見えてないんだよ
ないものが見えたり聞こえたりするの幻覚、幻聴っていうんだって》
《それで昔から変なこと言ってたのか》
《やっぱり嘘つきの異常者かよ、なんでこいつ俺らと同じ普通学級にいるんだろ》
《■■■■■みたいに難癖つけられて濡れ衣着せられるとかたまったものじゃない》
《私何度か同じクラスになってるけど前からこいつそういう被害妄想酷かったよ》
《異常者 この異常者!!》
次々に、僕に浴びせられる"声" 頭が痛い、割れそうだ。
その声に体は、精神は、拒絶反応を示す。
うるさくて、うるさくてうるさくてうるさくて……
もう聞きたくない!
奴らのたてる声も吐息も足音も脈音もすべてすべてすべて耳障りでたまらない!
うるさい偽善者
《まっ、待って!! わ、私も見た……
どさくさに紛れて■■■■■さんが花瓶落として、
御月くんの頭をそこに……》
《まっ、待って!! わ、私も見た……
どさくさに紛れて■■■■■さんが花瓶落として、
御月くんの頭をそこに……》
──ならなんでお前は■■■■■を止めなかったんだ
そんなこと僕が言うまでもなく、クラスメイトが口を開く。
《見てたら止めてるはずじゃない?》《黒須くんのこと庇うためだけに言ってない?》
だなんてつっこみを入れる。
そもそも、全く擁護にすらなってない
僕からすれば焼け石に水としか思えないし腹立たしい。
うるさい偽善者
《一瞬すぎて、声上げられなくて……それで……》
《一瞬すぎて、声上げられなくて……それで……》
──言い訳?? ふざけるな
僕がそんな言葉を内心に閉じ込めている間に
そいつを含んだ【クラスメイト達】の声は収まることなく続く
《十手さん、こんな奴のこと庇わなくていいよ》
《私、近くにいたけどそんな感じなかったよ》
《見間違いだろ? あの時ごった返しててどいつがどいつかとかわかんなかったじゃん》
《で、でも本当に■■■■■さんが……! 御月くんに怪我を負わせたなら傷害罪に……!》
《それで違うなら誤認逮捕ってやつになるよな》
《最近問題になってたやつだよね……?》
《それにさっきから■■■■■もやってないって言ってるじゃん》
《たまたま近くにいたとかで犯人って言われたらたまったものじゃないよね、■■■■■さんが可哀想》
《十手は異常者の事庇うのもうやめていいと思うよ》
《なんで! ねえ、いじめはよくないよ!》
《いじめ?? だから何?? 私達こいつに迷惑してるんだよ》
《迷惑な奴を追い出すなりなんなりすんのは当たり前だろ》
僕の耳を、頭を、脳を汚し続ける。
《皆さんお静かに!!》
──そんな最中、それを切り裂くような担任の声が聞こえた。
その後丸く収める為に■■■■■は皆の前で
僕に言葉で謝罪するようにとされた
そして僕は後で母と共に職員室に呼び出されて
"精神科の受診を勧められた"
《黒須さんは皆に合わせることが致命的に出来ないようでしたし
昨年度以前の担任から聞く限りよりは遥かに減っているようですが
私から見ても異常な行動、言動が見えることは確かです
恐らく黒須さんは口数を減らしてそれを無くそうと努力しているのでしょうが》
──努力?? 違う!! 勝手に的外れな憶測をたてるな!
僕はあいつらと話す価値がないと思ってるだけだ!!
そんな言葉を押し殺している間、母の謝罪の言葉が聞こえた
ああ結局この母はそうだ。 結局そうだ。
後日、御日と共に登校する時 学校に……
そんなクラスメイトと担任で構成されたクラスに行くのが嫌で
公衆トイレの個室に閉じこもって過ごしていた
御日は僕と別れるとき、ひどくよどんだ目をしていた。
いや、僕が顔に傷を負ったときから……いやそれよりも前からそうだった。
けれども、それは僕が顔に傷を負って益々強くなり、
そしてトイレの前で服を交換し終えて、行きたくないと
そう伝えたときに更に強くなったのには違いない。
ランドセルの中に入れた文庫や教科書を読んで時間を潰して
外に出ればとっくに夕日が沈みかけていた、のに御日はここに来ていない
帰宅すれば御日と母がいて、どこに居たのか母に問いただされた
母はあまり強引に出れない性格の為黙秘で押し通せた
「お前のクラスに殴り込みにいった
■■■■■って奴はどうにか殴れたけど他のやつ殴る前に押さえられた」
そう、なんでもないように御日は言った 母は泣いていた 御日は暫く自宅謹慎だそうだ
僕は嬉しかった
御日が自宅謹慎を言われた翌日、母が引越しをすると荷造りを始めた
荊街内ではあるが遠くの■区に引っ越した
また公衆トイレで時間を潰すが、やはり学校から母に連絡が入り不登校発覚。
三者面談。保健室登校を勧められた。卒業式、出たくないと言ったらどうしてもの場合は
校長室で校長から直接渡すということを言われた
中学、母の都合でまた引越しをした。カスミ区。前の小学校に……近い が
ギリギリ学区が被らないだろう公立の爆波津中学に入学させられた
御日曰くあの偽善者もちゃんと別の中学のようだ
だが勿論、僕は学校になんて行かない。 あそこには馬鹿しかいないだろうから
僕の友達足りうる、一緒に学校生活を送りたいような人はいるわけないから
中学入学後暫くして、今度は御日が外出時あの偽善者に偶然出くわしたらしい
腐れ縁という奴か
僕が顔に消えない傷をつけられてから、大分たった
あれから病院に通わされている……確かに薬を飲むと煩いのが少し収まる
あれ以来変なものが見えるようになった、聞こえるようになった
医者はそれは幻覚、幻聴で"■合失■症"という病名を告げた。奴らが僕に貼り付けたレッテルだ
医者も僕にそれを貼り付けた。 薬は飲まないと苦しくて堪らない。 飲んでも苦しいのに
病院でカウンセリングを受けさせられてるときに気がついたのだが
その事件の事と、頭異能制御装置を入れられたこと以外の過去の記憶が希薄になっている気がする
医者もカウンセラーも僕を腫物扱いして馬鹿にしているそれは酷く伝わってくる……
堪らず癇癪を起こしてカウンセラーに怒鳴ってああそれで、担当が何度か変えられて、中止されて
医者もそんな感じで何度も変わった
帰ると、御日が母を殴り始める
僕の娯楽はこのときの音を聞くことくらいだ。この時だけ、僕は酷く良い気分になる……
趣味をしているときの達成感やらとは全く違う感覚で……口角が、思わず上がるような
高校に入ってから二年。 御日は僕の出席日数を僕に成りすまして未だに稼いでいる。
しかも僕のほうにも御日に扮して定期テストを受けるように頼んでくる。
10月も暮れの頃。 そろそろ寒くなってきたが久々に二人で買い物に出かけることになった。
学生寮から徒歩でイバモールツクナミまで。
今日は平日。御日は学校をサボって僕とこうしている。
こうして歩いていると本当に今日は人の気がなくて、ひとつ幸いといえるだ──
ぐしゃり──音が、なった
視界は90度横に倒れて、視界は低くなっていて
赤い肉塊が目の前にあってナンバープレートのない黒い車が、
その肉塊の上からすごい勢いで走り去っていった。
いたい
ああでも、意味を理解したら その意味を認識したら
僕の受けた損傷は、この体の損傷だけではなくて
隣の肉塊が何であるか、これは、ただの肉塊だ
《History:Sun》
自分達が高校に入って2年。もう11月だ。
俺の出席日数はそろそろ足りてるだろう。 御月の出席日数稼ぎに専念することにしよう。
並行して学校サボりつつ軽音楽部のスカウトもすすめたりと大忙しになりそうだ。
屋上で軽くライブしたら黒川って奴と大魔道士を名乗る剣野って奴が
こっちに興味をもったようで会話になった。
黒川は軽音楽部へのスカウト成功。
折角だし他所の学校の奴ともセッションしたい。 他校へのスカウトも進める。
創藍高校、熾盛天晴高校、葉色高校、避田高校、ブランブル女学院、貝米津高校、轟木工業高校……
創藍では真柄、熾盛天晴では椰子丸と涼風、避田では天津風、ブラ女では八雲、
貝米津では五十嵐、轟木では西園寺、葉色高校ではスカウトならずだが
音を鳴らす異能力者の奴とセッションした。 異能の音を楽器ってするのはどうだろうと
ペケだしてしまったが硬いこと言わずにスカウトしときゃよかったかな。
その後は見学に来たソラコー1年の空子、あとはブラ女の司馬って奴も来た。
初の舞台はクリスマスパーティでの演劇部のバックバンド。
狼男ん姿んやつと女子生徒の2人が美女と野獣を演じて大仏頭んやつがその他エキストラ
演じきってたのなかなかに上手くやっていた。
劇の雰囲気に合わせて、ヴァイオリンやフルートを主立たせた構成にしたわけだが
どいつも上手くやってくれたおかげでコラボは失敗もなくやりきったろう。
夏休み明け。 前に縁のあったマキナになんとなく勧誘をかけた。
文化祭……想来祭でとうとうバックバンドでなくバンドメインでの公演。
多少のアクシデントが無かったかといえば嘘になるがこれもやりきった。
クリスマスパーティ。 今年は演劇部とのコラボではなく今回もバンドメインでの公演。
空子がいない舞台。 1曲目の曲は空子用の……ヴァイオリンのパートのある構成で作られた
それでいて、そのパートを演奏しない…… 空席の用意された曲をやったわけで……
可愛い部員の我儘……と言えればよかったが御月があいつに懐いているのが俺は気に食わなくて
しかも御月は、そいつと一緒に大学に行きたいと 進学しないという今までの考えを覆した。
俺は御月と一緒にいたい、いてやりたい。 御月も俺と一緒にいたいという。
御月を大学にいかせない、という方法で実現させるのは簡単だ。
俺が御月に成りすまして1年の頃から出席日数をごまかしていたと職員室で暴露してしまえばあるいは。
けれどもそれは御月の望みを否定して壊すことになる。
あいつと一緒にいたいという……俺以外の奴と一緒にいたいという ──もやつく
御月のことを否定することだけはしたくないししてはならない。
ならば俺が大学に行けば……というならばどう考えても不正でもして、成功させねば不可能だ。
なのに俺は大枚はたいて受験票をとって…… クラスメイトやら他の誰かに打ち明けたら……
【勉強頑張るしかない】とか【今まで頑張らなかった自業自得だから諦めろ、仕方ない】と
をとられたくない
そんな風に言われるに決まっているから俺が御月と一緒にいたい、という理由でなんて
絶対に打ち明けることなんてしたくなかったし出来なかった。
そんなとき、黒川が俺に取引をもちかけてきた。
成功の可否は今はまだ分からないが【俺の異能の将来的譲渡を約束する】のを条件に
インチキで俺を大学に合格したことにしてくれるっていう。
そもそも、そんな理由で受験をするなど。 合格するなど。 常識的に、良識的に考えるならば。
本当に真剣に大学に入って勉強をしたかったのに不合格になってしまったものへの冒涜他ならない。
──だが、世の中弱肉強食。 俺は俺の為ならどんな手段でも使うし他人の犠牲なんて厭わない。
俺が不正で合格したことになったなら、誰か一人その分不合格になるのかもしれない。
だがその一人を俺は憐れまないし、その一人は俺にとってどうでもいい。
そいつが敵になったのならば、叩きのめす。 それだけだ。